一括表示の食品添加物 乳化剤

2018年7月25日

乳化剤は水と油のように分離しやすい物質を混ぜ合わせるための添加物です。

相性の悪い者同士をたとえて「水と油のような」とよくいわれますが、水と油だけを混ぜ合わせると、必ず分離し混ざり合うことはありません。

しかし、水油両方ともに親和性のある物質「乳化剤」を加えて撹拌すると、混ざりあい白く濁り牛乳のようになります。

その状態を「乳化」といい、乳化の作用は食品のみならず社会の様々な場面で利用されています。

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食品に用いられるものは「乳化剤」、洗剤などの食品以外に使用されるものを「界面活性剤」と称されます。

代表的な乳化食品であるマヨネーズの原料は、水、植物油、酢、調味料、卵黄で、これらをよく混ぜて作ります。

その中で乳化剤として作用しているのは卵黄に含まれる「レシチン」という物質です。

一括して「乳化剤」と表示されるものは数えきれないほどあり、用途に合わせて使用されています。

乳化剤は化学物質を合成して作られた合成乳化剤と、天然の原料から採取される天然乳化剤とに分けられます。

認可されている合成乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、ステアロイル乳酸カルシウム、チーズのみに使用されるリン酸塩類などがあり、この他にもたくさんの種類があります。

天然乳化剤は、レシチン(卵黄、大豆から採取)、コレステロール、サポニン(植物のキラヤから採取)、カゼインナトリウム(牛乳を原料とする)が代表的なものになります。

乳化剤の働きも様々で、いろいろな場面で目的にあわせて機能を発揮します。

①乳化、分散作用で、水と油の片方に他方を分散させ、混ぜ合わせる「乳化」の効果。

②液体同士を内部にしみこみやすくする、湿潤、浸透効果。

③混ざりにくい液体同士の微粒子を分散させ、まるで溶けて混ざったような状態にする可溶化効果。

④パンやケーキ、ホイップクリームの柔らかさの元になる気泡の保護膜を作って破れにくくする起泡効果。

⑤泡立ちを抑える消泡効果。

⑥主に薬の製造時に原料を型から外しやすくし、光沢を与える離型効果。

⑦炭水化物やタンパク質の品質をよくする効果。

⑧洗浄、抗菌効果もあり、食品の日持ちを良くするために利用されています。

グリセリン脂肪酸エステル

「グリセリン脂肪酸エステル」には、天然の油脂の成分から作られる物と、天然には存在しない物質を混ぜて作られるものに分類されます。

天然の油脂の中にはグリセリンが存在します。

グリセリンに脂肪酸が一つだけ結合したものに「モノグリセリド」という物質があります。

結びつく物質によって、何種類ものモノグリセリドが作られます。

天然には存在しない物は「ポリグリセリン」といい、グリセリンを化学的に結合させたものになります。

結びつける物質が無数にあるならばポリグリセリンもその数だけ生成でき、いろいろな性質のものが出来上がります。

代表的な「グリセリン脂肪酸エステル」は以下の通りです。

①モノグリセリド        
②酢酸モノグリセリド(グリセリン酢酸脂肪酸エステル)
③乳酸モノグリセリド(グリセリン乳酸脂肪酸エステル)
④クエン酸モノグリセリド   
⑤ジアセチル酒石酸モノグリセリン  
⑥コハク酸モノグリセリド   
⑦グリセリン酢酸エステル   
⑧ポリグリセリンエステル 
⑨ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル  

⑨はポリグリセリンと変化したリシノレイン酸の結合物でリシノレイン酸はひまし油に含まれている脂肪酸です。

ひまし油は外用では万能オイルとして有名ですが、食用にすると下痢を起こすので、下剤にも使用されています。

これらの「グリセリン脂肪酸エステル」は乳化目的では、マヨネーズ、マーガリン、チョコレート、アイスクリームなど、泡消効果を利用して豆腐などに使用されます。

結びついた脂肪酸の種類によっては抗菌作用もあるので、品質保持のためにパンや麺類にも使用されています。

その他、ドレッシング、ホイップクリーム、ケーキ類、ショートニング自販機の缶コーヒーなど、様々な食品に活用されています。

食品ラベルには物質名ではなく「乳化剤」と一括表示されています。

ですので消費者は何が含まれているか理解することが難しいと言えます。

「グリセリン脂肪酸エステル」は食品安全委員会の検査の結果では、安全と認められている添加物の一つです。

ポリグリセリン脂肪酸エステルについては、動物実験の結果、多量に摂取した場合肝臓や腎臓に影響を及ぼす例も出ていますが、普通の生活では人体への影響はないものとみなされます。

しかし、自然ではなく化学的に作られているものがどのように人の健康に影響を及ぼすはわかりません。

ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル 

別名「シュガーエステル」とも言います。

ショ糖は砂糖のことで、砂糖はブドウ糖と果糖が結合したものです。

ショ糖の分子の形には、他の物質と結合する場所が8か所あって、脂肪酸はランダムに結び付くのでいろいろな「ショ糖脂肪酸エステル」ができます。

ショ糖と脂肪酸が結びつくと変化し、ショ糖の甘さはなくなります。

また何種類もの脂肪酸があるので、「ショ糖脂肪酸エステル」には多くの種類が存在します。

水と油のように性質の違う物質の境界を結びつける物質を「界面活性剤」といいます。

洗剤などの主成分で、食器の油脂汚れや体の油脂を水に溶かして汚れを落とす役目をします。

「乳化剤」「界面活性剤」は同じ物質で、食品製造に利用されるものが「乳化剤」になります。

「ショ糖脂肪酸エステル」は洗剤を作る目的が開発製造のきっかけですが、現状では洗剤製造にはコスト面などで量産に至らず、主に「乳化剤」として使用されています。

添加物使用目的としてはパン類やケーキのボリュームアップ、食感の改良などのためにビスケットをサクサクにして口当たりを良くする、ごはんや麺類の品質保持、アイスクリームの乳化安定、かまぼこなど練り物の保水性・弾力・品質の保持などです。

ギョーザ、シューマイ、インスタント麺、キャンディ、キャラメル、カレールー、缶コーヒーなどたくさんの食品に使用されています。

また、ガムに使用された場合は「乳化剤」ではなく「ガムベース」として表示されます。

他に、医薬品や工業の分野でも活用されています。

「ショ糖酢酸イソ酪酸エステル」はショ糖と酢酸とイソ酪酸エステルの結合物です。

ショ糖脂肪酸エステルと同様に多くの種類があります。

油脂を構成している有機酸を脂肪酸といいますが、酢酸、イソ酪酸は脂肪酸ではありません。

乳化作用はなく、香料など液体の比重調整のための「乳化剤」として利用されます。

この二つの物質が出来上がる過程は同じですが、脂肪酸の含まれない「ショ糖酢酸イソ酪酸エステル」も合わせて「ショ糖脂肪酸エステル」であり「乳化剤」として扱われています。

この二つの乳化剤について、法令で不純物の規定はありません。

ですので、どのような物質が含まれているのかわかりません。

これらは様々な実験の結果、安全であると認められている乳化剤の一つです。

食品ラベルには原則「ショ糖脂肪酸エステル」と表示しますが、乳化剤の目的で使用して場合は「乳化剤」の一括表示が認められています。

ソルビタン脂肪酸エステル

ソルビタン脂肪酸エステルは合成乳化剤で日本では古くから使用されてきました。

食品添加物としてだけでなく、工場用界面活性剤、化粧品にも使用されています。

使用基準や不純物の法令上の規定はありません。

ソルビタンはソルビトールが水分子と分離する化学反応でできる化合物の混合物です。

ソルビトールはバラ科の植物から発見された糖の一種で、食品添加物の甘味料としてお菓子などにも使用されています。

それをいろいろな脂肪酸が結びついたものが「ソルビタン脂肪酸エステル」です。

ソルビタン、脂肪酸とも様々な種類が存在するため、たくさんのソルビタン脂肪酸エステルが存在します。

使用目的は他の乳化剤の「ショ糖脂肪酸エステル」と配合してコーヒーフレッシュに、「レシチン」「グリセリン脂肪酸エステル」と配合してホイップクリームに使用されます。

また乳化安定剤としてアイスクリームや乳飲料、清涼飲料水に、また水分分離防止の役目としてマーガリンに使用され、パンやお菓子などにも含まれています。

消泡剤として発酵食品、佃煮などに、ガムの歯への付着防止やチョコレートの温度変化による劣化防止にも使用されます。

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また、食品以外の用途として近年では天然由来の膜が病害虫を包み込んで窒息させる方法で、園芸用殺虫殺菌剤の主成分として活用されています。

その他、医薬品、化粧品、プラスチックの帯電防止剤などに用いられます。

ポリソルベート、20、60、65、80

ポリソルベート類は2008年に食品添加物に指定されました。

20は複数の化合物の「ポリオキシエチレンソルビタン」と「ラウレン酸」という脂肪酸の結合物です。

60、65は「ステアリン酸」との、80は「オレイン酸」との結合物です。

界面活性剤の水と油の親和性の程度を表す数値を「HLB」(親水親油バランス)といいます。

ポリソルベート類は親水性が高い乳化剤ですが、HLBの数値はその中で20が一番大きく、80、60、65の順に小さくなります。それぞれの特性を活かして使い分けられています。

化合物質によって幅広い範囲のHLBの乳化剤を作ることができるショ糖脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステルに比べて、ポリソルベート類はより高いHLBの値を持つ乳化剤を作ることができます。

ポリソルベート類の用途は広く、ヨーグルト、ココア、チョコレート、アイスクリーム、ドレッシング、野菜の漬物、洋菓子など、幅広い食品に使用されており、その製品各々に添加量の使用基準が細かく定められています。

ポリソルベート80は軟膏や医薬品の注射剤やドリンク剤にも用いられています。

ポリソルベート類の摂取による健康への影響には下痢の症状が認められています。

ポリソルベート60に関しては、発がん物質との同時投与で胃がんの発生率が高まる事例があります。

またポリソルベート65、80については染色体異常の一部陽性結果が報告されていますが、発現頻度が低いこと、それ以外の実験結果では陰性であることから、遺伝毒性については問題になるものではないと考えられています。

ポリソルベート類の1日の摂取許容量は、4種類の個々の設定ではなくグループとして10mg/㎏とされています。

ステアロイル乳酸塩、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム 

ステアロイル乳酸塩はステアリン酸という脂肪酸と乳酸がいくつか結合した縮合乳酸が結合した物質の塩です。

ステアリン酸は動物性、植物性脂肪で最も多く含まれる高級脂肪酸です。

乳酸には天然に存在するものと、天然には存在しないものと相対する2種類があり、ステアロイル乳酸塩とステアロイル乳酸カルシウムはこの二つが混ざっているものです。

ステアロイル乳酸カルシウムは1964年に乳化剤として指定され、様々な食品に使用されています。

ステアロイル乳酸ナトリウムは古くから乳化剤や安定剤として欧米各国で使用されてきました。

これらの乳化剤は、パンやケーキに容量を増やしたり、品質保持のために用いられています。

蒸しパン、和菓子、クッキー、マカロニ、麺類などに使用されています。

食品に対する使用基準には細かい規定があり、パンやお菓子の原料のミックスパウダーなどの重量に対して、細かく使用量が定められています。

また、ステアロイル乳酸カルシウムとステアロイル乳酸ナトリウムを同時に使用する場合は、その合計量がステアロイル乳酸カルシウムの使用基準を超えてはいけない規定があります。

様々な動物実験の結果、発がん性、生殖発生毒性、遺伝毒性は認められていません。

しかし、一部の動物実験において、体重増加の抑制と肝臓への影響が認められることから1日の許容摂取量は20mg/kgとされています。

レシチン

レシチンは動植物から抽出されるリン脂質の混合物で、別名「ホスファチジルコリン」といい、天然乳化剤として活用されています。

レシチンは元々自然界の動植物の細胞中に存在し、生体膜の構成組織で重要な役目を持っており、情報伝達にも関わる極めて重要な物質です。

レシチンは、水と油をなじませる性質があり、血液中でたんぱく質と脂肪を結合する役目を持ち、細胞膜を正常な状態に保ったり、悪玉コレステロールを減らす働きがあると言われています。

また不足すると疲労、免疫力の低下、動脈硬化などの原因になります。

食品添加物として使用されるレシチンは抽出原料から、植物レシチン、卵黄レシチン、分別レシチンなどに分けられます。

「植物レシチン(大豆レシチン)」

大豆から抽出されるもので、安価のため様々な食品に活用されています。

2014年、新たにひまわりの種子から抽出される『ひまわりレシチン』が認可されました。

「卵黄レシチン」

鶏卵の卵黄から作られます。高価のため主に医療用に使用されています。

「分別レシチン」

植物、卵黄に含まれる各種リン脂質の割合を変えたものです。

割合を変えることで、性質の違う乳化剤を作ることができます。

レシチンはチョコレート、アイスクリーム、マーガリン、乳製品、パンなど多くの食品に使用され、医療用では静脈注射用乳化剤、皮膚病の薬、また化粧品などにも使用されています。

1日の許容摂取量は設定されていません。

リン酸塩類等(チーズのみ)

リン酸塩は様々な食品に使用されている食品添加物で、1個のリンと4個の酸素から構成される物質です。

リンは人間の体に元々存在し、その85%が骨組織となっており、カルシムとともに骨格の形成やエネルギー代謝などに必要不可欠な成分です。

リンは普通の食品、魚類、肉類、大豆製品など多くの食品に含まれていて、通常の食生活では不足することはないと考えられます。

リン酸塩は、プロセスチーズの乳化目的や品質改良剤、ハムやソーセージの結着剤、酸味料としてインスタントラーメンや菓子類など、様々な加工食品に多く使用されています。

リン酸塩の種類はたくさんあり、チーズを例にすると、ピロリン酸塩、ポリリン酸塩、メタリン酸塩、グルコン酸塩、クエン酸塩などの23種類が認められていて、どのリン酸塩を使用するかはメーカーによって違います。

ですので、許容摂取量を確認するすべがなく、使用規定もありません。

リン酸塩自体は人体には存在しない物質であり、一つ一つのの含有量が少量でも、普通の食品に加えて多くの加工食品に使用されていますので、無意識にたくさんの量を体に取り込むことになります。

食品添加物としてリン酸塩を過剰摂取した場合、副甲状腺機能の亢進、腸管のカルシウム吸収を抑制するという報告があり、その影響として骨粗鬆症になる危険性が高くなります。

加えて、カルシウム不足はマグネシウム、鉄の吸収も悪くなり、集中力の低下、抑うつ症状、虚血性心疾患を招いたりします。

その他の影響では、腎臓結石の発症リスクが高くなる事例もありますが、症例数が少なく研究の途中です。

過剰摂取の問題から、製造時にリン酸塩を使用しない取り組みをしているコンビニチェーンもあります。

コレステロール

コレステロールは天然乳化剤で正式名称は「動物性ステロール」です。

乳化剤として使用されるコレステロールは、羊毛の油脂や魚油から抽出され、食品添加物、工業用原料、医薬品などに利用されています。

食品にはアイスクリーム、マヨネーズなどに利用され、乳化を安定させる働きがあります。

食品添加物としての使用基準や許容摂取量は設定されていません。 

コレステロールは人体の脳や肝臓などあらゆる組織に存在する脂質の一つで、細胞膜やホルモンを作る材料になっています。

人体の中のコレステロールの割合は、約80%が脂肪から肝臓で合成され、約20%は体外から取り込む形で調整されています。

コレステロールの過剰摂取は生活習慣病の原因といわれますが、たんぱく質と結合し血液中に存在するコレステロール(リポタンパク質)がその因子といわれています。

リポタンパク質には肝臓からコレステロールを血管に運ぶ役割の「LDLコレステロール」と、血管中のコレステロールを回収して肝臓に運ぶ役割の「HDLコレステロール」があります。

血液中にコレステロールを貯めるのが「LDLコレステロール」で、悪玉といわれています。

血管障害などの生活習慣病はコレステロールの過剰摂取が原因との認識が強いですが、過剰でも不足でもこの二つのバランスが崩れると様々な病気の原因になります。

血液中のコレステロールが過剰になると、高脂血症や動脈硬化、不足すると免疫力の低下を原因とした病気に繋がります。

またコレステロールは乳がんの危険性があるという報告もあります。

乳がんの進行には女性ホルモンのひとつの「エストロゲン」が影響していると言われ、コレステロールが体内で代謝される時にできる物質が体内で「エストロゲン」と似た働きをし、それが乳がんの進行に関与しているといわれています。

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